東京高等裁判所 昭和49年(ネ)143号 判決
控訴人
大橋光雄
右訴訟代理人
南部健
控訴人
若尾たつ
ほか二名
右三名訴訟代理人
加藤益美
被控訴人
小笠宅造
右訴訟代理人
荒井秀夫
主文
本件控訴をいずれも棄却する。
控訴費用は控訴人らの負担とする。
事実
《前略》
第一、控訴人らの主張
一、債権譲渡の対抗要件として、譲渡人による債権譲渡の通知を要することはいうまでもないが、右対抗要件は権利の最終実現のときまでに具備すれば足るのである。時効中断のための請求には、権利が移転しておれば十分であつて、未だ対抗要件の履践を終つている必要はない。なぜかといえば時効中断の本質は、債権者が債務者に対し、権利行使の意欲あることを、何らかの方法をもつて知らせることにあるのだからである。再言すると、権利の移転があれば、その権利に基づき請求することによつて時効は中断し、その後に対抗要件を具備することにより、権利の実現をすることができる。
二、控訴人大橋は、第一次訴訟の判決確定の翌日たる昭和四六年三月二六日に本訴を提起しているから、これによつて時効は中断している。けだし、第一次訴訟の控訴人大橋敗訴の判決の確定と同時に、時効が完成すると解すべきものではなく、民法一五三条の類推により、その後六ケ月間は中断の効力が継続するものと解するのが相当であるからである。
第二、証拠関係《省略》
理由
当裁判所は、控訴人大橋の本訴請求は、主位的請求および予備的請求とも失当として棄却すべきものであり、被控訴人の控訴人らに対する本訴各請求は、正当として認容すべきものと判断する。その理由は、左記の外原判決理由記載のとおりであるからこれを引用する。
控訴人らは要するに、債権譲受人のした請求または差押は、対抗要件を具備しない場合にも、時効中断の効力だけは認めるべきであるというのである。しかしながら債権譲渡の通知がなければ、譲受人は債務者に対し、自己が右債権を譲受けたことすなわち自己が債権者であることを、主張することができないのであるから、たとえ請求や差押をしても、時効中断の効力を生じない。したがつて通知のある前に消滅時効の期間を経過すれば、時効は完成するのであつて、その後に通知があつても遡つて時効中断の効力を生ずるものとすることはできない。
控訴人らはまた第一次訴訟の提起係属をもつて、民法一五三条にいわゆる催告の効力を認めるべきであるともいうが、前記同様の理由により右催告の効力をも認めることはできない。《以下省略》
(岩野徹 中島一郎 桜井敏雄)